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05.06.12:05 [PR] |
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05.03.15:39 凛という弓 |
どんな弓でも、ましてどんな弦でも、中る人は中り、中らない人は中らないという意見※1には概ね同意しかねますが、的中至上主義である学生弓道の考え方の上では、ある点では言い得て妙であるようにも思えます。ともかく、『自らが使用する道具について学ぶ』という姿勢は武道を志す者として必要なのではないかと思います。私自身、高校三年生まで直心シリーズ以外の弓を知らず、大学の弓道部に入ってから知識の幅を広げることで楽しみが広がりました。
そしてただ単純にこういった『道具についての薀蓄』は私という人間の大好物でありますので、ここで少しまとめながらご紹介していこうと思います。
あくまで主観的な記述内容ですので、参考程度に捉えていただくようお願い致します(恥ずかしながら、弓や弦の設計理念から述べられる一般論の外において主観的事実を交えずに語ることは私のレベルでは難しいと思われます)。
1.弓変更 直心Ⅰスーパー 二寸伸13kg → 凛(粋Ⅱ) 並14.5kg
当初私は使用していた弓の弓力に行射上の不足を感じ、同じ直心で1,2kg重い伸寸の弓を探しておりました。そこで部室に置いてありました『凛』という弓を見つけ、引いてみたのが事の発端です。その凛は並寸であり、また直心とは全く異なるタイプの弓であることから本来の目的にはそぐわない弓でしたが、前評判と好奇心から手に取って引いてみたくなったのです。
この変更は私に革新的な変化をもたらしました。中高大と今年弓歴九年目になる私は、初期の一時に錬心を使用していたものの、以降大部分を直心と共に歩んできました。直心シリーズの基本モデル直心Ⅰは、(カーボンほどではないものの)反動が大きい為に弓返りし易く矢勢に優れ、耐久性も高いため学生弓道御用達の弓という印象です。小山弓具店製作の錬心直心シリーズは上述の通り反動大、耐久性高、引き味も堅め※2で正に入門用の弓でしょう。グラス弓の始祖としても知られています。
一方、北海道は寺内弓具で製作された一文字系のグラス・カーボン弓シリーズ(真・楓・桂・葵・橘・翔・翎・粋・仁・凛)は、ミヤタ弓をベースとした発展形であるとされ、全体的に柔らかな弓であるという印象です。そして今回、現時点での一文字系の最高発展形(粋の軽量化・竹弓に近似)である『凛』(もとい『粋Ⅱ』)に、直心シリーズとの尋常ならざる相違を体感することとなったのです。
1-1.弓自体の重さ
驚異の一言です。凛はこれまで手にしたことのあるどんな弓よりも軽く、その軽さは、直心シリーズに慣れていた私にまるで何も持っていないと感じさせるほどでした。この特性は、特に打起こしにてその性能を発揮しました。弓自体の重量による腕への負担が限りなく0であるので疲労が少なく、集中が持続しやすくなりました。またこの軽さの為か、離れの後も弓身の落下が皆無でした。
1-2.反動
限りなく小さいです。この超低反動の為か、他の部員に引かせたところ弓返りしない者が多数出ました。
1-3.引き味
全体的に華奢な印象に反して、その引き味は堅めといえます。とはいえ、直心の比ではありません。肥後蘇山系にみられる負荷の一貫性はなく、一般的な弓と同様に会に近づけば近づくほど負荷が増加します。また弓のしなりが大きく、弓構えと会で比べると40%ほどしなります(直心シリーズは30%弱という印象)。必要以上に引き込むとバキッと折れてしまいそうです。
1-4.弦音
弦にもよるとは思いますが、響R(堅め)でも、飛翔(柔らかめ)でも、高く、短い音がでます。竹弓のようです。凛の特性上、弦は柔らかく、細めのものが適しているように思えますが、弦輪部分が麻などの柔らかい繊維でできているものも使えそうです※3。柔らかい弦は伸びやすいものが多く、伸びて弦が額木(上関板)に付かないよう、こまめな注意が必要になってくるでしょう。
1-5.耐久性
これは矢数をかけなければ分析は難しいと予想されますが、恐らくは他の弓よりも低いでしょう。設計理念として粋の性能のままの軽量化を図っているので、やむを得ない点であるように思えます。また軽量であるため取扱いが粗雑になりがちであることも故障の原因として少なくないようです。他使用者の情報によると、破損時は最も細い額木の下部から折れるようです。
1-6.外見
細く、華奢です。弓として機能するのが不思議なほどです。何層の構造になっているのか分かりません※4が、技術の結晶と形容されるであろう成をしています。また私が使用している一本は上下関板の付近にラメ入りがされており、全体的に淡い緑がかかっています。ワインレッド色にもできるようです。また『特作 凛』は自らの手形を製作所に郵送することで、手のサイズに合った太さにカスタムメイドできるモデルになっています。このモデルでは色も自由に設定できるようです。銘は下関板上方に「凛」と一文字、そのすぐ下に「sui Ⅱ」とあります。
1-7.行射感想
伸寸から並寸、更には弓力、弦まで変更したのにも関わらず、引尺・狙い共に変わりがありませんでした。『丁度うまい具合に自分にハマった』というやつなのでしょうか・・・。自らの射技のクオリティに関わらず、矢飛びが鋭く、直心の時によく見られた弧を描いて飛んでいくことがなくなりました。上記二点の変更は一般的に矢勢の向上をもたらしますが、それに限る変化ではないように思えてなりません。これらの点については慎重な分析が必要です。行射が充実した場合にはおよそ14kgそこらの弓とは思えない結果を出しますが、力の不均衡や会における精神不安定が出ると、矢勢は相変わらず良いものの、離れの瞬間に『絶対に中らない』と感じさせられます。この弓に変えてから的中率が跳ね上がり、弦音が良く、疲労しないので憑かれそうです。また握りが細すぎるので小指の引っ掛かりが利かず、改造が必要です。
1-8.総括
上記の通り、『凛』はまとめると「射手の技量が高く発揮された際に非常に高い性能を発揮するが、非なる時は著しくその性能を発揮しなくなる」という弓だと感じます。また一層の丁寧な扱いを要する点も無視できません。この弓を最大限に活かすためには、直心を扱っていた時以上の道具を大切にする精神と、自らに甘えの無い行射が必要でしょう。ただこの特徴は、私が直心を使用していた時に感じていた《なぜ抜くのか分からない》という疑問を払拭し、《外れるべくして外れているのだ》とはっきり感じさせてくれるのでありがたく思っています。射が失敗した時に著しく伸びる「光」という弦を使用することでより一層の精神の引き締めを図りたいと考えています。私の射における的中の是非は、もう自らの気持ち一本であると強く感じます。錬士六段の先生にも同様のご指摘を賜りました。精進あるのみです。
道具を変えたことで的中率が向上したことから「道具の所為であった」とするのではなく、「自分に合った道具を選択した」と考えていきたいです。(言葉をきれいにしただけ)
※1:中る中らないは道具よりも自らの射技に左右されるところが大きいであろうという意見
※2:直心Ⅲバンブーを除く
※3:天弓・飛翔・ひのくに翔美・光 etc
※4:企業秘密とされています
そしてただ単純にこういった『道具についての薀蓄』は私という人間の大好物でありますので、ここで少しまとめながらご紹介していこうと思います。
あくまで主観的な記述内容ですので、参考程度に捉えていただくようお願い致します(恥ずかしながら、弓や弦の設計理念から述べられる一般論の外において主観的事実を交えずに語ることは私のレベルでは難しいと思われます)。
1.弓変更 直心Ⅰスーパー 二寸伸13kg → 凛(粋Ⅱ) 並14.5kg
当初私は使用していた弓の弓力に行射上の不足を感じ、同じ直心で1,2kg重い伸寸の弓を探しておりました。そこで部室に置いてありました『凛』という弓を見つけ、引いてみたのが事の発端です。その凛は並寸であり、また直心とは全く異なるタイプの弓であることから本来の目的にはそぐわない弓でしたが、前評判と好奇心から手に取って引いてみたくなったのです。
この変更は私に革新的な変化をもたらしました。中高大と今年弓歴九年目になる私は、初期の一時に錬心を使用していたものの、以降大部分を直心と共に歩んできました。直心シリーズの基本モデル直心Ⅰは、(カーボンほどではないものの)反動が大きい為に弓返りし易く矢勢に優れ、耐久性も高いため学生弓道御用達の弓という印象です。小山弓具店製作の錬心直心シリーズは上述の通り反動大、耐久性高、引き味も堅め※2で正に入門用の弓でしょう。グラス弓の始祖としても知られています。
一方、北海道は寺内弓具で製作された一文字系のグラス・カーボン弓シリーズ(真・楓・桂・葵・橘・翔・翎・粋・仁・凛)は、ミヤタ弓をベースとした発展形であるとされ、全体的に柔らかな弓であるという印象です。そして今回、現時点での一文字系の最高発展形(粋の軽量化・竹弓に近似)である『凛』(もとい『粋Ⅱ』)に、直心シリーズとの尋常ならざる相違を体感することとなったのです。
1-1.弓自体の重さ
驚異の一言です。凛はこれまで手にしたことのあるどんな弓よりも軽く、その軽さは、直心シリーズに慣れていた私にまるで何も持っていないと感じさせるほどでした。この特性は、特に打起こしにてその性能を発揮しました。弓自体の重量による腕への負担が限りなく0であるので疲労が少なく、集中が持続しやすくなりました。またこの軽さの為か、離れの後も弓身の落下が皆無でした。
1-2.反動
限りなく小さいです。この超低反動の為か、他の部員に引かせたところ弓返りしない者が多数出ました。
1-3.引き味
全体的に華奢な印象に反して、その引き味は堅めといえます。とはいえ、直心の比ではありません。肥後蘇山系にみられる負荷の一貫性はなく、一般的な弓と同様に会に近づけば近づくほど負荷が増加します。また弓のしなりが大きく、弓構えと会で比べると40%ほどしなります(直心シリーズは30%弱という印象)。必要以上に引き込むとバキッと折れてしまいそうです。
1-4.弦音
弦にもよるとは思いますが、響R(堅め)でも、飛翔(柔らかめ)でも、高く、短い音がでます。竹弓のようです。凛の特性上、弦は柔らかく、細めのものが適しているように思えますが、弦輪部分が麻などの柔らかい繊維でできているものも使えそうです※3。柔らかい弦は伸びやすいものが多く、伸びて弦が額木(上関板)に付かないよう、こまめな注意が必要になってくるでしょう。
1-5.耐久性
これは矢数をかけなければ分析は難しいと予想されますが、恐らくは他の弓よりも低いでしょう。設計理念として粋の性能のままの軽量化を図っているので、やむを得ない点であるように思えます。また軽量であるため取扱いが粗雑になりがちであることも故障の原因として少なくないようです。他使用者の情報によると、破損時は最も細い額木の下部から折れるようです。
1-6.外見
細く、華奢です。弓として機能するのが不思議なほどです。何層の構造になっているのか分かりません※4が、技術の結晶と形容されるであろう成をしています。また私が使用している一本は上下関板の付近にラメ入りがされており、全体的に淡い緑がかかっています。ワインレッド色にもできるようです。また『特作 凛』は自らの手形を製作所に郵送することで、手のサイズに合った太さにカスタムメイドできるモデルになっています。このモデルでは色も自由に設定できるようです。銘は下関板上方に「凛」と一文字、そのすぐ下に「sui Ⅱ」とあります。
1-7.行射感想
伸寸から並寸、更には弓力、弦まで変更したのにも関わらず、引尺・狙い共に変わりがありませんでした。『丁度うまい具合に自分にハマった』というやつなのでしょうか・・・。自らの射技のクオリティに関わらず、矢飛びが鋭く、直心の時によく見られた弧を描いて飛んでいくことがなくなりました。上記二点の変更は一般的に矢勢の向上をもたらしますが、それに限る変化ではないように思えてなりません。これらの点については慎重な分析が必要です。行射が充実した場合にはおよそ14kgそこらの弓とは思えない結果を出しますが、力の不均衡や会における精神不安定が出ると、矢勢は相変わらず良いものの、離れの瞬間に『絶対に中らない』と感じさせられます。この弓に変えてから的中率が跳ね上がり、弦音が良く、疲労しないので憑かれそうです。また握りが細すぎるので小指の引っ掛かりが利かず、改造が必要です。
1-8.総括
上記の通り、『凛』はまとめると「射手の技量が高く発揮された際に非常に高い性能を発揮するが、非なる時は著しくその性能を発揮しなくなる」という弓だと感じます。また一層の丁寧な扱いを要する点も無視できません。この弓を最大限に活かすためには、直心を扱っていた時以上の道具を大切にする精神と、自らに甘えの無い行射が必要でしょう。ただこの特徴は、私が直心を使用していた時に感じていた《なぜ抜くのか分からない》という疑問を払拭し、《外れるべくして外れているのだ》とはっきり感じさせてくれるのでありがたく思っています。射が失敗した時に著しく伸びる「光」という弦を使用することでより一層の精神の引き締めを図りたいと考えています。私の射における的中の是非は、もう自らの気持ち一本であると強く感じます。錬士六段の先生にも同様のご指摘を賜りました。精進あるのみです。
道具を変えたことで的中率が向上したことから「道具の所為であった」とするのではなく、「自分に合った道具を選択した」と考えていきたいです。(言葉をきれいにしただけ)
※1:中る中らないは道具よりも自らの射技に左右されるところが大きいであろうという意見
※2:直心Ⅲバンブーを除く
※3:天弓・飛翔・ひのくに翔美・光 etc
※4:企業秘密とされています
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